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名古屋地方裁判所 昭和57年(行ウ)12号 判決 1985年4月26日

原告 櫻井富三男

被告 日本専売公社中部支社長 日本専売公社

訴訟代理人 服部勝彦 大脇啓吾 青山祥男 外九名

主文

一  本件訴えのうち、被告日本専売公社中部支社長に対し、同人が昭和五七年八月一一日付でしたたばこ小売人資格喪失処分の取消しを求める訴えを却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告日本専売公社中部支社長が、原告に対し、昭和五六年七月二一日付でしたたばこ小売人の位置変更不許可決定処分を取り消す。

2  被告日本専売公社中部支社長が、原告に対し、昭和五七年八月一一日付でしたたばこ小売人資格喪失処分を取り消す。

3  被告日本専売公社は、原告に対し、昭和五七年八月一二日から前項の処分の取消しに至るまで一か月金五万九七〇一円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  第3項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1 被告日本専売公社中部支社長に対し、たばこ小売人資格喪失処分の取消しを求める訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案の答弁)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 請求の趣旨第3項につき、担保を条件とする仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和四六年一一月二七日付で、営業所の位置を瀬戸市東松山町一五二番地の二(以下、「現営業所」という。)として、たばこ専売法(以下、単に「法」という。)三〇条一項に基づく製造たばこ小売人(以下、「小売人」という。)の指定を被告日本専売公社中部支社長(以下、「被告支社長」という。)から受け、以来、たばこの販売を行つてきた。

2  ところが、愛知県土地開発公社による国道一五五号線交通安全対策工事の施行により、現営業所敷地も拡幅の対象区域に含まれたため、原告は移転を余儀なくされ、その代替地として瀬戸市から同市西松山町一七六番地一〇の土地(以下、「予定営業所」という。)の払下げを受けた。

3  原告は、被告支社長に対し、昭和五六年五月一八日付申請書をもつて、変更後の営業所の位置を右予定営業所所在地とする小売人営業所位置変更許可申請をしたところ、被告支社長は、原告に対し、昭和五六年七月二一日付で右申請を法三一条一項三号の予定営業所の位置不適当を理由に不許可(以下、「本件不許可処分」という。)とし、同月二五日、原告にその旨通知した。

4  原告は、昭和五六年九月一七日付をもつて本件不許可処分を不服として日本専売公社総裁に対して審査請求をしたが、同総裁は、昭和五七年七月二〇日付で右審査請求を棄却し、同月二九日、原告にその旨通知した。

5  しかしながら、本件不許可処分は、左記のとおり違法なものである。

(一) 本件不許可処分は、法三一条一項三号、たばこ小売人指定関係規程(以下、「規程」という。)二二条二項、五条一項二号に基づくものであるが、同法及び右規程の定める距離制限は、憲法二二条一項が保障する営業の自由を侵害する違憲無効なものであるから、これに基づく本件不許可処分も違法である。

(二) 法は、新規の小売人指定については距離制限の根拠規定(法三一条一項三号)を置いているが、既存の小売入の位置変更許可申請については、このような規定を置いていない。したがつて、通達であるにすぎない規程及びたばこ小売人指定関係規程運用要領(以下、「運用要領」という。)によつて、憲法が国民に保護している営業の自由を制限することは許されないから、右規程及び運用要領のみを根拠とする本件不許可処分は違法である。

(三) 本件位置変更許可申請に係る予定営業所は、次のとおり、規程五条一項二号ただし書所定の「予定営業所が、交通機関の乗降場の近傍、人の集散が著しい場所その他の特に製造たばこの小売業を営むのに適当と認められる場所にある場合」に該当するから、二号本文所定の小売人指定の欠格条件(距離制限)は適用されない。したがつて、二号本文を適用してした本件不許可処分は違法である。すなわち、

(1) 予定営業所の位置は、国道一五五号線沿いにあり、車の進行量が極めて多く、また、近傍には名鉄不動産部の建売住宅が二〇〇戸以上建ち並び、五〇戸が居住するライオンズマンションその他が多数ある。更に、近年、名鉄瀬戸線が栄乗り入れとなつたことにより、予定営業所付近は急速に発展している地域であつて、人の集散の著しい所である。また、予定営業所とその近傍に所在する小売人秋田商店とは、車の進行量の激しい国道一五五号線をはさんで位置するため、客層は競合しない。

したがつて、本件予定営業所は規程五条一項二号ただし書及びこれを受けた運用要領2・5・(3)・イ・(ロ)「人の集散が著しい場所」、同2・5・(3)・ロ・(イ)(ロ)等に該当する。

(2) なお、この点に関し、被告らは、仮に予定営業所が運用要領2・5・(3)・イ・(ロ)に該当するとしても、距離制限がなくなるわけではなく、同2・5・(3)・イの定め、すなわち、「次に掲げる場所の場合は、小売人の営業所との距離が規程第三条の環境区分別の標準距離の一区分左の距離を満たさなければならない。」との定めがあることを根拠に、右緩和された距離制限すら満たしていない本件予定営業所については許可することはできない旨主張する。

しかしながら、規程五条一項二号ただし書の文理解釈からすれば、運用要領2・5・(3)・イの如き解釈は採用できないのであつて、運用要領2・5・(3)・イは規程の定め以上に大きな制度を認めるものであるから無効と解すべきである。

(四) 被告支社長の小売人指定の取扱い実務をみても、被告らが主張する規程、運用要領所定の距離制限に合致していないにもかかわらず、左記のとおり指定された事例が数多くある。被告ら主張の距離制限は、実際には適用されていないのであり、ひとり原告の場合にのみこれを形式的に適用し、本件位置変更許可申請を不許可とするのは許されない。

事例<1>

瀬戸市品野町二丁目三七八所在の山松商店と五七メートルの距離に、昭和五〇年頃、同町三丁目五六所在の米万商店が指定を受けた。

事例<2>

瀬戸市西松山町七五所在の広畑商店と一七四メートルの距離に、昭和四二年頃、同町一五七所在の秋田商店が指定を受けた。

事例<3>

瀬戸市西松山町七五所在の広畑商店と一五五メートルの距離に、昭和四三年頃、同市東松山町一〇七所在の松尾商店が指定を受けた。

事例<4>

瀬戸市松山町一五二所在の原告の現営業所と一九二メートルの距離に、昭和五五年、同町四六所在の喫茶店が指定を受けた。

事例<5>

名古屋市港区南陽町の市営公設市場において、昭和五六年八月、隣同士の井上米穀店と大西屋酒店とが同時に指定を受けている。

6  次に、被告支社長は、原告に対し、昭和五七年八月一一日付で、現営業所がなくなつたことを理由として小売人の資格が喪失した旨の通知(以下、「本件通知」という。)をした。

7  しかしながら、本件通知は、行政庁の確約の法理、禁反言の法理、信義衡平の原則に照らし、違法である。すなわち、

原告が現営業所建物を撤去したのは、「これをなしても従来通り営業できる。」との被告の約束があつたからにほかならない。

原告は、現営業所所在地を愛知県土地開発公社に買収され、同公社より営業所建物を早急に撤去するよう求められた。しかしながら、原告としては、右公共事業に協力したくとも、右建物を撤去してしまうと、小売人資格を喪失する心配があつたので、その旨を右開発公社の担当者に伝えたところ、「それなら建物を撤去しても営業資格を喪失しない旨の証明書をもらえばよい。自分がその原稿を書いてあげよう。」とのことであつた。右担当者に書いてもらつた原稿には、「行政不服審査の裁定があるまで」との限定があり、もともと裁定は被告支社長の上級機関が判断するもので、その結果は期待できないものであつたので、右の箇所を「本件位置変更申請に関する争訟が解決するまで」と訂正して浄書し、証明申請をした。これをうけた被告支社長(所管、瀬戸営業所長)は、その意味を十分理解したうえでこれを証明し、原告に対し、昭和五七年一月八日付で証明書(以下、「本件証明書」という。)を交付した。そして、実際にも、被告支社長は裁定があつた昭和五七年七月二〇日以降も同年八月一一日まで予定営業所へ納品し注文を受けていたものである。

以上の経緯に照らすと、原、被告ら間において、位置変更許可申請に関する一切の争訟が解決するまでは、現営業所の建物を撤去しても原告の小売人資格には何らの影響も及ぼさず、従前通りの小売人資格を有する旨の合意が成立したもの、すなわち、講学上の「行政庁の確約」がなされたものと解せられる。このように、被告支社長が、原告に対し、建物撤去後も小売人資格を有することを文書で明確に確約しておきながら、後日になつて、これを否認することは、行政庁の確約の法理、禁反言の法理、信義衡平の原則に反し、許されないものといわざるを得ない。

8(一)  前記5記載のとおり、被告支社長がした本件不許可処分は違法なものであり、取り消されるべきものである。右処分が取り消された場合には、原告の小売人資格が継続することとなるのであるから、昭和五七年八月一二日以降、右処分に基づき被告支社長によりたばこの納品を拒否されたことによつて生じた原告の得べかりし利益について、被告日本専売公社(以下、「被告公社」という。)は、民法七〇九条、国家賠償法一条に基づき損害賠償義務を負う。

右たばこの納品拒否により、原告が喪失した得べかりし利益は、一か月につき金五万九七〇一円である。

(二)  前記7記載のとおり、被告支社長は、本件位置変更許可申請に関する争訟が解決するまで原告の小売人資格を認める旨確約したのであるから、被右公社は、原告に対し、本件訴訟が終了し解決するまでの間、たばこを納品すべき債務を負うものである。にもかかわらず被告支社長は、昭和五七年八月一二日以降、右債務を履行していないのであるから、被右公社は、原告に対し、民法四一五条に基づき、右日時以降、前記逸失利益一か月につき金五万九七〇一円を賠償すべきである。

(三)  仮に、被告支社長が原告に対し交付した本件証明書が法的効力を有しないものであるとすれば、被告支社長は、全く無意味な書面をあたかも法的効力があるものであるかの如く原告を誤信せしめ、原告をして、現営業所を撤去しても予定営業所におけるたばこの販売を継続できるものと信頼せしめたのであるから、右無内容な書面を交付して現営業所を撤去させ、小売人資格を喪失させた行為は欺罔行為に該当する。また、少なくとも右証明書を交付すれば、原告が右のとおり誤信することは容易に知り得たはずであるから、原告の右信頼を裏切る行為は違法な行為といわざるを得ない。

したがつて、被右公社は、原告に対し、被告支社長のした右欺罔行為につき、民法七〇九条、国家賠償法一条に基づき、原告の被つた前記逸失利益を賠償すべき義務がある。

9  よつて、原告は、被告支社長に対し、本件不許可処分及び本件通知の取消しを、被右公社に対し、昭和五七年八月一二日から本件通知の取消しに至るまで一か月金五万九七〇一円の割合による損害金の支払いを求める。

二  被告らの本案前の主張

被告支社長がした本件通知は処分性を有しないから、その取消しを求める訴えは不適法である。

法三〇条一項等の規定に照らすと、小売人の指定は、当該指定に係る営業所においてたばこを販売することのできる資格を付与するものであるから、本件の如く撤去移転により営業所が不存在となつたときは、指定の条件を欠くこととなり、当然に指定は失効し、資格喪失の効果が生ずる。

ただし、営業所が不存在となつた場合でも、災害等の場合で相当の期間内に復旧できるときは資格喪失の効果は生じないし、また、予め法三〇条三項に基づき営業所位置変更申請がなされており、これが許可となつたときは、その変更許可に係る新営業所で従前の資格を以つてたばこの販売ができるので、このときも指定は失効せず、資格喪失の効果も生ぜず、従前の資格が継続する。

また、右の場合において、営業所位置変更申請に対し不許可の処分がなされても、同処分が裁決又は判決で取消されたときは、公社は改めて許可処分をすることになるから、このときも右同様資格喪失の効果は生ぜず、従前の資格が継続する。

ところで、公社では、営業所不存在による資格喪失の場合には、当該小売人から法四二条の規定による廃業の届出があつたときを除き資格喪失の通知をする取扱いであるが、この取扱いは、何ら法令の規定に準拠してなされるものではなく、単に当該小売人に対し、営業所が不存在となつたことによつて小売人資格が喪失したとの事実を知らせる事務整理の便宜上なされるにすぎないものである。

小売人の資格は、前述の如く、専ら、営業所不存在の事実と営業所位置変更申請に対する許否の処分の如何によつて、喪失の効果の有無が決せられるのであつて、右効果は資格喪失通知にかかわりなく生ずるのである。

この意味において資格喪失の通知は、国民の権利義務を形成し、あるいはその範囲を確定することが法律上認められている行為ではなく、公定力を有する行為ではないから、行政事件訴訟法三条に規定する抗告訴訟の対象たる処分には当たらないのである。

被告支社長がした本件通知も、原告の現営業所が、昭和五七年三月下旬頃、撤去されて存在しなくなり、その小売人の資格が喪失したので、これに伴う事務整理としてなされたにすぎないものである。

よつて、本件通知は取消訴訟の対象たり得ないものであるから、本件訴えのうちその取消しを求める部分は不適法であり、却下を免れない。

三  被告らの本案前の主張に対する原告の反論

1  指定に係る営業所消滅の事実が小売人資格喪失の効果を生ぜしめるとの被告らの主張は誤りである。

例えば、<1>営業所が災害等で消滅した場合、あるいは、<2>その他の理由で営業所が消滅しても営業所位置変更申請書を提出している場合には、営業所が消滅しただけでは小売人資格を喪失しない取扱いであることは被告らもこれを認めている。このことは、営業所の物質的消滅が必ずしも小売人資格の喪失をもたらすものでないことを端的に表わすものである。

現に、被告支社長は、原告の現営業所消滅の後も予定営業所の原告の新店舗にたばこを納品し、かつ、新規の注文を受けているのである。このような事実は、現営業所が昭和五七年三月下旬に消滅したことにより小売人資格を喪失したとする被告らの主張と矛盾するものである。

2  被告らは、資格喪失の通知を事務処理の便宜のためにするものであつて、任意に行われるものである旨主張するが、これは、運用要領6・1・(7)の規定に反する見解である。すなわち、右規定は、「小売人の営業所が存在しなくなつた場合は、たばこ小売人としての資格を喪失したことになるので、直ちにその旨通知し、廃業に準じて処理すること。」としており、通知が必要なものであること、また、通知したうえではじめて廃業に準じた処理をすることを定めている。右規定は、通知が資格喪失の効果をもたらす行為であることを窺わせるものである。

3  本件においても、被告支社長が昭和五七年八月一一日に本件通知をしたことによつて、はじめて資格喪失したとして納品停止、在庫整理等の処理がなされている。

すなわち、営業所消滅と資格喪失との間には、資格喪失通知という行政処分が介在しているのである。

被告らの主張する処理手続を仮にしたとすれば、右処理は、原告の営業所が消滅した時点(昭和五七年三月下旬)か、審査請求についての裁決があつた昭和五七年七月二〇日になされるべきはずであり、いずれにしても、本件における実際の処理とは矛盾している。  4 よつて、本件通知は、取消訴訟の対象となる処分に該当するから、被告らの本案前の主張は失当である。

四  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1ないし4は認める。

2  同5は争う。ただし、同5(三)のうち、規程五条一項二号ただし書に原告主張のような定めがあること、予定営業所が国道一五五号線沿いにあること、建売住宅、マンションが存在することは認める。

3  同6は認める。

4  同7は争う。ただし、原告が、昭和五七年一月八日、瀬戸営業所長に対し、現営業所の建物を撤去しても審査請求係属中は、営業資格を有する旨の証明願いを行い、右所長がその旨の証明書を交付したことは認める。

5  同8は争う。ただし、瀬戸営業所長が、昭和五七年八月一二日以降、原告に対し、たばこの売渡しをしていないことは認める。

6  同9は争う。

五  被告らの主張

1  小売人の制度

(一) 小売人指定の制度

法は、国の財政上の収入を確保すると同時に、国民の日常生活において広い需要があるたばこを全国いかなる地でも同一品質・同一金額で販売し国民の日常生活の必要に応ずることをも併せて目的として、たばこにつき専売制を採用している。そして法は、たばこの小売について、公社又はその指定した小売人でなければたばこを販売することができず、かつ、指定に係る営業所においてしか販売できないこととしている。

すなわち、法三〇条一項は、「小売人となろうとする者は、営業所の位置を定め、公社に申請して、営業所ごとにその指定を受けなければならない。」と規定し、また、同条三項は、「小売人が営業所の位置を変更しようとするときは、公社に申請して、許可を受けなければならない。」と規定しているのである。

(二) 小売人営業所の距離制限の制度

次に、法三一条一項三号は、「営業所の位置が製造たばこの小売業を営むのに不適当と認められる場合は、公社は小売人の指定をしないことができる。」と規定している。

すなわち、法三一条一項三号は、小売人の営業所の位置につき、最寄りの小売人の営業所との間の距離制限をなすことを公社の裁量に委ねているのであり、これを受けて公社は、距離制限の裁量基準を、規程で定め、その運用を運用要領の2小売人配置の項等で定め、いわゆる標準距離による距離制限を実施しているのである。

(三) 小売人の営業所位置変更と距離制限の準用

小売人の営業所の位置につき法三一条に基づき距離制限がなされるのは、国民が日常生活においてたばこを購入するのに不便な場所に営業所が設置されることを防止するほかに、一定地域内のたばこに対する需要量からみて適正かつ合理的な水準を超える数の営業所が出現することを抑える趣旨をも含むものであるから、同条による距離制限は、営業所位置変更の場合にも準用される(規程二二条参照)。

2  本件不許可処分の経緯

(一) 原告は、昭和四六年一一月二七日付で、営業所の位置を瀬戸市東松山町一五二番地の二(現営業所)として、被告支社長から法三〇条一項に基づき、小売人の指定を受け、たばこの販売を行つていたものであるが、昭和五六年五月一八日付で、被告支社長に対し、変更後の営業所の位置を瀬戸市西松山町一七六番地一〇(予定営業所)とする小売人営業所位置変更申請をした。

(二) しかして、原告申請に係る予定営業所については、規程三条に定める環境区分別標準距離は、市制施行地、準市街地として二〇〇メートルであるところ、原告の営業所の変更申請の理由は、土地収用法の適用を受ける公共事業の施行に起因するものであるから、公共事業移転の緩和通達を適用し、環境区分別標準距離二〇〇メートルの八割の一六〇メートルが標準となる。

しかるに、申請に係る予定営業所と最寄りの訴外秋田小売人との距離は、僅か七四メートルであり、右一六〇メートルを大幅に下回つていた。

そこで、被告支社長は、昭和五六年七月二一日付で、原告の申請に対し、法三一条一項三号に基づき、予定営業所の位置不適当を理由に不許可とする本件不許可処分をなしたものである。

3  小売人の距離制限の合憲性

原告は、法三一条一項三号に基づく距離制限が憲法二二条に違背すると主張するが、失当である。

前述のとおり、小売人の営業所の位置につき標準距離による制限がなされるのは、国民が日常生活において、たばこを購入するのに不便な場所に営業所が設置されることを防止するほかに、一定地域内のたばこに対する需要量からみて適正かつ合理的な水準を超える数の営業所が出現することを抑える趣旨をも含むものであり、更にこれを敷えんすれば、次のとおりである。

すなわち、一定地域内におけるたばこの需要量は、当該地域に存在する営業所の数にかかわらずおおむね一定していると考えられるから、一定地域に必要以上に多くの営業所が競合すれば、常時ある程度のたばこの売れ残りが発生し、たばこの品質低下を招くおそれがあるし、また、もしそれを避けるために当該地域の需要量に見合う数量のたばこだけを公社から供給するとすれば、一営業所当たりの供給量を僅少なものとせざるをえず、そうすると零細化した小規模営業所の濫立に伴つて効果的な指導監督の実施や専売事業の効率的、経済的運営が多かれ少なかれ阻害され、ひいては国の財政収入にも影響を及ぼすという好ましくない事態に至るおそれもなしとしない。

このようなことは、たばこ専売制の目的に反するものであつて、これを防止するために営業所の適正配置を図るため、小売人の営業所の位置につき標準距離による制限をすることは、たばこ専売制の目的を達し、公共の福祉を維持するため必要かつ合理的制約であるというべきであるから、これをもつて憲法二二条に違反するということができない。

4  本件不許可処分の適法性

原告は、申請に係る予定営業所が、規程五条一項二号のただし書及びこれを受けた運用要領2・5・(3)のイ及びロに該当するから、距離制限は適用されず、本件不許可処分は違法である旨主張するが、失当である。

(一) 運用要領の2・5・(3)・イに該当する旨の原告主張の誤り

原告申請の予定営業所は、運用要領の2・5・(3)・イの各号に該当しない。仮に該当するとしても、同項の定めによれば、規程三条の環境区分別標準距離の一区分左の距離が適用されることになるにすぎないのである。

しかるところ、原告の予定営業所の規程三条の環境区分別標準距離は、前述のとおり、二〇〇メートルでありその一区分左の距離は一五〇メートルとなり、これに公共事業移転の緩和通達を適用すると、最寄りの小売人の営業所までの距離は一二〇メートル以上なければならないのである。

しかるに、原告の申請に係る予定営業所と最寄りの秋田小売店との距離は、七四メートルにすぎないから、右の一区分左の距離たる一二〇メートルには達せず、許可することができないのである。

(二) 運用要領2・5・(3)・ロに該当する旨の原告主張の誤り

また、原告主張の運用要領2・5・(3)・ロの(イ)、(ロ)等は、標準距離の適用除外として、自動車の通行する片側二車線以上の道路及び横断禁止又は横断危険な場所、あるいは異なる人の流れに面している場所を掲げているが、原告の予定営業所と秋田小売人の営業所とは、当該地域を南北方向に通つている国道一五五号線によつて隔てられているものの、同国道は片側一車線であり、同国道は横断禁止とはなつておらず、また、同国道の諸車の通行量は、朝・夕の通勤時間帯においては、比較的多いものと認められるが、右以外の時間帯においては、それほど多いものではなく、更に、原告の予定営業所位置の東方前面、秋田小売人の南方向約四九メートルの地点には、指示標識が設けられた横断歩道が設置されているから、消費者は、当該横断歩道を利用して安全、かつ、容易に同国道を横断できる状態にある。したがつて、原告の予定営業所は、横断危険な場所に当たらず、また、通行人もそれほど多くなく、異なる人の流れに面していると目すべき状況も見られない。そのほか運用要領2・5・(3)・ロの各号に該当する事由は認められないから、許可することはできないのである。

(三) 他事例を引用する原告主張について

原告は、距離制限に合致していないのに指定された事例があるとして、本件位置変更申請も許可されるべきである旨主張しているが、仮りにこれらの事例が、原告主張のように距離制限に適合していなかつたとしても、そのことの故に、法三一条一項三号及び規程、運用要領に準拠した本件不許可処分の適否が左右されるものでなく、この点において原告の主張は失当である。

なお、原告が距離制限に違背のまま許可されているとして引用する事例も、規程に則つて適正に許可されるべき事案である。

5  本件証明書交付の経緯とその内容

原告は、被告公社の中部支社の瀬戸営業所長が原告に交付した本件証明書をもつて、被告らが位置変更許可申請に関する一切の争訟が解決するまでは、現営業所の建物を撤去しても原告の小売人資格には何らの影響も及ぼさない旨を確約したものであり、これを否認する本件通知は、行政庁の確約の法理等に照らし許されない旨主張するが、次のとおり失当である。

本件証明書が交付された経緯は、原告の位置変更申請を不許可とする本件不許可処分があつた後、原告から、行政不服審査請求がなされ、その行政不服審査手続継続中の段階において、原告から公社中部支社に対し証明書の交付申請があつたので、瀬戸営業所長が交付したものであるが、この証明書は、運用要領6・1・(7)で、位置変更不許可処分の日から六〇日経過した時、また、営業所が不存在になつた時点において、現に争訟継続中のときはその争訟が確定したときに廃業に準じて処理すべきことが定められているところから、これを確認するため、「旧営業所が撤去されても、位置変更申請に関する争訟(不許可処分に関する審査請求)が解決されるまでは、旧営業所を営業所とするたばこ小売人たる資格に対する廃業処理は行わない。」との趣旨で交付したものであり、原告主張のような確約や合意をなしたものではない。

また、そもそも法は、三〇条一項で、たばこを販売できる小売人の資格は公社の指定によつて初めて付与されるものとされており、法三〇条三項では、小売人が営業所の位置を変更しようとするときは公社の許可を受けなければならないとされているから、右の所定の許可のない限り、単なる確約や合意によつて、たばこ小売人の営業資格が生ずる余地はなく、この点において、原告の右主張は、法を理解しない失当のものである。

なお、右の「争訟」の意義については、営業所が存在しなくなつた時点において、現に継続している争訟を指し、その争訟が行政不服審査法の審査請求である場合は、その審査請求の手続が審査裁決によつて終了したことをもつて、「争訟の確定」とするのが、被告公社の取扱いである。

したがつて、右の場合、営業所が不存在になつても、審査裁決があるまでは、廃業処理を行うことはなく、審査請求の関係でも、法三〇条三項所定の「小売人」に該当するものとして審査裁決がなされるのである。

また、本件においては、昭和五七年七月二〇日付で審査請求に対し棄却の裁決があつたのであるが、これに先立つ同年三月下旬頃、原告の旧営業所は撤去されており、本来であれば、右撤去の時点で納品の停止をすべきところ、誤つて同年八月一一日まで納品を継続してしまつたのであり、同日以降納品を停止したのは、右取扱いの誤りを是正したにすぎない。

6  損害賠償の請求について

本件不許可処分は、以上のとおり、適法なものであるから、これが違法であることを前提とする損害賠償請求(請求原因8(一))は理由がなく、また、被告らには原告主張の確約に違反した点はないので、債務不履行を理由とする損害賠償(請求原因8(二))も理由がない。更に、被告らは原告を欺罔したことはないので、これを前提とする損害賠償請求(請求原因8(三))も理由がない。

六  被告らの主張に対する原告の認否及び反論

(認否)

1 被告らの主張1は争う。

2 同2の(一)は認める。同(二)のうち、原告の予定営業所と秋田小売人との距離が約七四メートルであること、原告の営業所の変更申請の理由が土地収用法の適用を受ける公共事業の施行に起因するものであつたこと、被告支社長が昭和五六年七月二一日付で本件不許可処分をしたことは認め、その余は争う。

3 同3は争う。

4 同4の(一)は争う。同(二)のうち、原告の予定営業所と秋田小売人の営業所とは、当該地域を南北方向に通つている国道一五五号線によつて隔てられていること、同国道は片側一車線であり、横断禁止の道路とはなつていないこと、同国道の諸車の通行量は、朝、夕の通勤時間帯においては比較的多いこと、原告の予定営業所位置の東方前面、秋田小売人の南方向約四九メートルの地点には、指示標識が設けられた横断歩道が設置されていることは認め、その余は争う。同(三)は争う。

5 同5、同6は争う。ただし、同5のうち、原告の指定に係る現営業所が、昭和五七年三月下旬頃、撤去されたことは認める。

(反論)

1 小売人の距離制限の違憲性

(一) 距離制限をすることによつて不便な場所に営業所が設置されることを防止できるとの被告らの主張は、現実性がなく誤りであり、また、何故に不便な場所に営業所が設置されることを防止しなければならないのか理解し難い。また、適正配置によつて国の財政収入を確保できるとの点については、そもそも財政収入確保のために距離制限を行うなどというのは合理的な理由とはなり得ないものであり、自由競争の原理の下に置くことこそ財政収入の増加につながることからすれば、本末転倒の議論である。

(二) 更に、距離制限をしないと、一定地域に営業所が過剰競合して、たばこの売れ残りが発生し、ひいてはこれがたばこの品質低下を招くおそれがある旨、被告らは主張するが、売れ残りによる品質低下を招くおそれが距離制限を行うことによつて現実にどの程度防止できるかについては具体的な資料を欠き、果して実効性を有するかについては極めて疑問である。売れ残りの問題は、距離制限の問題と直接関連性を持つものではないし、営業所の設置それ自体を禁止するという強い制限を課さなくても、別のより緩やかな手段、方法、例えば、納品後一定期間経過後には回収し、右回収率如何によつてその後の納品を規制するなどの方法によることも可能であり、むしろ、このような方法によることの方がより実効性を有するのである。

要するに、たばこ販売に関する距離制限は、売れ残りによる品質低下の防止という規制目的を達成する手段としては実効性が乏しいばかりか、他のより緩やかな規制手段によつて十分実効性を期待できるのであるから、営業の自由に対する合理的な制限とは認められない。

また、たばこ販売についてはその経営上の保護を必要とする業種ではないこと、専売事業であるから乱売、過当競争による品質それ自体の低下といつた点は考慮する必要はないことなどからすると、結局、売れ残りによる品質低下の防止という理由のみによつてたばこ小売営業を距離制限という方法で規制し得ることになる。これは、右規制目的に比較し、憲法二二条一項の保障する営業の自由を過大に制限するものであるから、不合理である。したがつて、本件距離制限の根拠規定である法三一条一項三号、規程二二条二項、五条一項二号及びこれに基づく処理は違憲無効と解すべきである。

2 本件証明書に用いられた「争訟が解決するまで」の意味について

(一) 被告らは、右文言は、運用要領6・1・(7)の「争訟が確定したとき」との定めと同じ意味であり、右「争訟」とは、営業所が消滅した時点で継続している争訟を指し、右「確定」とは、当該争訟が審査請求であればその手続の終了したときを指すと主張しているが、右主張は誤りである。

すなわち、通常の用語例によれば、「争訟」とは不服審査、裁判等を包含する広い概念であり、また、その「確定」とは、通常の不服申立方法では取り消し得ない状態に達した場合を意味する。したがつて、本件証明書に用いられた「争訟が解決するまで」との文言は、本件位置変更申請に関する争訟(本件不許可処分の取消訴訟を含む。)が一切解決するまで、すなわち、「本件不許可処分の取消訴訟の判決が確定するまで」との意味に解すべきである。

(二) このように解しても、処分無効確認訴訟は審査請求前置制をとれないから、裁決後いつまでも廃業処理できないおそれというのは起こり得ないし、また、本件のような処分取消訴訟では、処分又は裁決があつたことを知つた日から三か月以内に訴えを提起しなければならないから、やはり、いつまでも廃業処理できないおそれという事態はあり得ない。

第三証拠関係<省略>

理由

一  被告らは、原告の小売人資格は現営業所が消滅したことにより既に喪失しており、被告支社長がした本件通知は、単に事務整理の便宜上なされるにすぎないもので取消訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法三条二項)に該当しないから、その取消しを求める訴えは不適法である旨主張する。

よつて、判断するに、法には、小売人資格の消滅事由として、指定期間の満了(三二条一項)、営業の廃止(四二条)及び指定の取消し(四三条一項)が規定されているが、それ以外に、小売人資格喪失通知によつて小売人資格を喪失させる等の法的効果を定めた規定は置かれていない。この点から、本件通知は取消訴訟の対象となる「処分」としての規定根拠を欠くものといえる。

この点に関し、原告は、指定に係る営業所が消滅したとの事実が小売人資格喪失の効果を生ぜしめるとの被告らの見解は誤りであり、運用要領6・1・(7)の規定に照らしても、小売人の営業所が消滅した場合には右通知は必要的なものであつて、右通知がなされてはじめて廃業に準じた処理(納品停止、在庫整理等)が執られることになつており、また、実際の取扱いもそのように行われているとして、本件通知が小売人資格喪失の法的効果をもたらす行政処分であると主張するので、以下、この点につき検討する。

まず、法は小売人は営業所ごとにその指定を受けなければならない旨定めている(法三〇条一項)ところ、原告が被告支社長から指定を受けた営業所(現営業所)が本件通知のされる以前である昭和五七年三月下旬頃撤去されたことは当事者間に争いがないから、右現営業所の撤去によつて原告の小売人資格が喪失したかについてみるに、法には、指定に係る営業所が不存在となつたときは、小売人資格が消滅する旨を定めた明文の規定は見当たらない。また、小売人資格指定処分については、法は一定の営業所用建物が現に存在していることを処分要件とはしておらず(法三〇条)、実務上の取扱いにおいても、建築確認書等から、指定後に通常の日数で開業できる見込みがあると認められる場合には、営業所用建物が完成していなくても小売人の指定をしていること(成立に争いのない乙第三号証により認められる。運用要領2・5・(6)・二のただし書)、また、指定に係る営業所が存在しなくなつた場合の実務上の処理として、災害等により滅失した場合で相当の期間内に復旧することができると認められるときや、営業所の位置変更申請あるいはその争訟手続が継続中であるときは、一定の期間資格喪失の通知をしないこととしていること(これらの点は被告らの自認するところであるから、これを認めることができる。運用要領6・1・(7))、更に、法は、小売人指定申請者の法違反による処罰歴の有無等の申請者本人の人的要素も指定処分の要件としているから(法三一条一項一、二、六号)、右指定処分が物的設備の構造、設備内容等の物的要素のみを処分要件とするいわゆる対物許可(例えば、道路運送車両法五八条所定の自動車検査証の交付処分)とは解し難いし、設置の場所及びその構造設備のみを処分要件とする公衆浴場業の許可(公衆浴場法二条一、二項)とも、その性質を異にすることなどを併せ考えると、小売人の指定は、対物的要素と対人的要素を併せ持つたものということができ、特定の営業所が存在することを前提とし、当該営業所が滅失することによつて指定の効力が当然失効するような類型の処分であるとは解し難い。

したがつて、本件において、昭和五七年三月下旬頃、原告の指定に係る現営業所が撤去された時点で、原告に対する小売人指定は当然に失効し、資格喪失の効果が生ずるとする被告らの主張は採用し難い。そうだとすると、原告は、右撤去後においても従前通り小売人資格を有するものと解すべきである。

そこで本件通知の性質について、更に検討するに、本件通知が小売人資格を喪失させる法的根拠を有しないことは前記のとおりであるところ、被告らの実務の取扱いからしても本件通知に原告の小売人資格を喪失させる効果を認めることはできない。すなわち、原告に対する小売人の指定は、あくまで指定に係る営業所、すなわち、現営業所の位置においてたばこを販売することを許可するものであり、右位置以外の場所においてたばこを販売することは、その旨の許可がない限り許されないものと解されるから(法三〇条一項ないし四項参照)、昭和五七年三月下旬頃、原告の指定に係る現営業所が撤去され、それ以降、指定に係る営業所位置に営業所用建物が存在しなくなつたこと(この点は当事者間に争いがない。)、右営業所位置の原告所有土地は、昭和五五年一二月六日、原告から、愛知県土地開発公社に対し、国道一五五号線の交通安全対策工事のために売り渡されており、右位置において原告が再度営業所を設け、たばこの販売を再開することは事実上不可能であること(成立に争いのない乙第九号証により認められる。)、また、原告のした本件位置変更許可申請は不許可とされたこと(当事者間に争いがない。)からすると、原告は、右営業所が撤去された昭和五七年三月下旬以降、小売人資格そのものについては、従来通りであるとしても、現実にはたばこを販売することはできず、また、将来においても、たばこを販売することは、本件不許可処分が取り消されない限り、事実上不可能であつたものというべきである。

以上の事実関係に照らすと、指定に係る営業所位置に営業所用建物が存在せず、将来においてもその再建の見込みがない以上、原告は、小売人資格を有するとしても、その資格は現営業所における営業のみに限定されており、予定営業所については、本件不許可処分が取り消されない限り、現実に小売人としての営業を行うことはできないのであるから、被告支社長において、原告に対し、たばこの納品停止、在庫整理等の廃業に準じた処理を行うことは当然の措置であり、このことは本件通知の有無とはかかわりのないことである(このような場合に、公社において、小売人指定の効力を消滅させるには、当該小売人に対し、法四二条所定の営業廃止の届出を慫慂し、これを行わせるか、法四三条一項五号による指定の取消処分によるべきである。)。本件において、現営業所が撤去された後においても、原告に対するたばこの納品が継続し、本件通知後に納品停止等の措置が執られたのであり(この点は当事者間に争いがない。)、また、それが実務の一般的な取扱いである旨原告は主張するが、前掲乙第三号証によれば、小売人の営業所が存在しなくなつた場合は、資格喪失の通知をすると共に、廃業に準じた処理をするのが実務の取扱いであることは窺えるけれども、本件のように、営業所が撤去された後においても右通知がなされるまでの間、たばこの納品を継続することが実務の一般的な取扱いであるとは認め難く、かえつて、証人鈴木[金小]好の証言によれば、右の取扱いは異例であつて、営業所が存在しなくなつた時点で、納品の停止をするのが通常の取扱いであることが認められる。

そうだとすると、右認定の実務の取扱いは、指定に係る営業所が存在しないため、当該小売人が現実に営業をすることができないことに着目して納品停止等の措置が執られているにすぎないものであつて、運用要領6・1・(7)所定の「資格喪失通知」の法的効果として、小売人資格が消滅する効果がもたらされたり、納品停止等の措置が執られたりするものとは解し難い(当裁判所の見解は前述のように営業所用建物が撤去され、更に本件「資格喪失通知」がなされた場合でも原告は小売人資格そのものを失うものではないとするものであり、これと矛盾する本件通知は、事務整理の便宜的方法としては、その形式及び内容において、妥当性を欠くものであることは否めないが、そうだからといつて、これに処分性を認めることができないことは前述のとおりである。)。

したがつて、被告らの実務の取扱いを前提として、本件通知が行政処分に該当する旨の原告の主張は、その理由がなく、結局、本件通知は、取消訴訟の対象となる「処分」に該当しないものといわざるを得ない。

なお、付言するに、前記認定の事実関係によれば、原告が指定に係る営業所位置で小売人営業を再開することは、事実上不可能であり、また、弁論の全趣旨によれば、原告においても、申請に係る予定営業所において営業することを希望しており、現営業所において営業を再開する意思は有していないことが窺えること、位置変更申請に係る本件不許可処分が取り消されれば、原告が予定営業所において適法に小売人営業を行い得ることについては異論の余地がないことなどからすると、仮に、本件通知が取消訴訟の対象となる「処分」に該当するとしても、原告としては、本件不許可処分の取消しを求めることにより、その所期の目的は十分達成されるものというべく、原告の訴訟目的からすれば、より直截な右取消しの訴えに加えて更に、本件通知の取消しを求める本件訴えについては、その利益がないものといわざるを得ない。

以上、要するに、本件通知の取消しを求める訴えは、取消訴訟の対象となる処分に該当しないし、仮に、該当するとしても、訴えの利益を欠くものであるから、結局、不適法なものといわざるを得ない。

二  本件不許可処分の適否について

1  請求原因1ないし4は当事者間に争いがない。

2  そこでまず、本件不許可処分に至る経緯をみるに、成立に争いのない乙第一号証の二、三及び証人鈴木[金小]好の証言によれば、原告申請に係る予定営業所の位置は、環境区分別標準距離を定めた規程三条にいう「市制施行地」のうち「準市街地」に該当すること、その場合の標準距離は二〇〇メートルであること、原告の位置変更申請の理由は、土地収用法の適用を受ける公共事業の施行に起因するものであるから、右申請については、右標準距離が緩和され、その八割に当たる一六〇メートルをもつて標準とみなされること、しかるに申請に係る予定営業所と最寄りの秋田小売人との距離は七四メートルであり、右標準距離を大幅に下回つていたので、被告支社長は本件不許可処分をなしたことが認められる。

3  原告は、小売人の指定につき、法三一条一項三号及びこれを受けた規程が、いわゆる標準距離による距離制限を定めていることが憲法二二条一項に違反する旨主張する。

そこで、この点について検討するに、法は、国の財政上の収入を確保すると同時に、国民一般の日常生活において広い需要があるたばこを公衆のすべてに均等に供給することを目的として、たばこにつき専売制を採用し、公社又はその指定した小売人でなければたばこを販売することができないものとしている。そして、法三一条一項は、公社が小売人の指定をしないことができる場合を列挙しているが、そのうち、同項三号が、「営業所の位置……が製造たばこの小売業を営むのに不適当と認められる場合」を欠格事由としたのは、国民が日常生活においてたばこを購入するのに不便な場所に営業所が設置されることを防止するほかに、一定地域内のたばこに対する需要量からみて適正かつ合理的な水準を超える数の営業所が出現することを抑える趣旨をも含むものであると解される。すなわち、一定地域内のたばこに対する需要量は、当該地域に存在する営業所の数にかかわらずおおむね一定していると考えられるから、一定地域に必要以上に多くの営業所が競合すれば、常時ある程度のたばこの売れ残りが発生し、たばこの品質低下を招くおそれがあるし、また、もしそれを避けるために当該地域の需要量に見合う数量のたばこだけを公社から供給するとすれば、一営業所当たりの供給量を僅少なものとせざるを得ず、そうすると、各営業所の取扱高が公社の定める標準に達しなくなる(法三一条一項四号)ばかりでなく、零細化した小規模営業所の濫立に伴つて効果的な指導監督の実施や専売事業の効率的、経済的運営が阻害され、ひいては国の財政収入にも悪影響を及ぼすという好ましくない事態に至るおそれも存するところである。このようなことは前記のたばこ専売制の目的に反するものであつて、これを防止するために営業所の適正配置を図ることは、法三一条一項三号にいう「営業所の位置」の適当性の問題のひとつとして、当然に同号の予定しているところであると解すべきである。

そうだとすると、法三一条一項三号及びこれに基づき、営業所の適正配置を図るため小売人の営業所の位置につき環境区分別標準距離による制限を定めている規程の各規定(三条、五条一項二号、二二条二項)は、たばこ専売制の目的を達し、公共の福祉を維持するための合理的制約であるというべきであるから、右法の規定、規程の定め及びこれに基づき小売人の指定をしないことは、何ら憲法二二条一項に違反しないものというべきである。

この点に関し、原告は、たばこ販売に関する距離制限は、売れ残りによるたばこの品質低下の防止という規制目的を達成する手段としては実効性が乏しいばかりか、他のより緩やかな規制手段によつて十分実効性を期待できるのであるから、営業の自由に対する合理的な制限とは認められない旨主張する。

しかしながら、前記のとおり、右法の規定及びこれを受けた規程による小売人の指定についての前記距離制限の規制目的は、広く、前記たばこ専売制の目的の達成にあるのであつて、原告主張のもののみに限られるわけではなく、また、そのひとつの規制目的である売れ残りによるたばこの品質低下の防止を達成する手段として、右距離制限が実効性が乏しいものであるとは、経験則に照らし、認め難いし、更に、他のより緩やかな原告主張のような規制手段によつて右距離制限と同じ規制目的を十分達成し得るものとも認め難いから、原告の右主張は採用し難い。

既に述べたとおり、法三一条一項三号は、一定地域内に適正かつ合理的な水準を超える数の営業所が競合することを抑制する趣旨をも含む規定であり、また、それは憲法二二条一項に違反しないものであるが、具体的にいかなる配置をすることがたばこに対する需要量からみて適正かつ合理的であるか、また、この適正かつ合理的な配置をいかにして行うかは、事柄の性質上、一義的に決まることではなく、法三一条一項三号はこれを第一義的には公社の合理的判断に委ねているものと解される。したがつて、公社がその判断のために同号の趣旨を具体化した内部的基準を定立することはもとより是認されるところであつて、このような見地からすると、規程及び運用要領が、小売人の指定について、営業所が所在する環境区分別に標準距離を設定し、既設の小売人営業所と申請に係る予定営業所との距離が右標準距離に達しない場合には、原則として指定しない旨を定めたことが右の是認される限度を超えているものとは、到底認め難い。

よつて、右規程の定めとこれに基づく処理が違憲違法である旨の原告の主張も採用し難い。

4  原告は、法は、新規の小売人指定については距離制限の根拠規定(法三一条一項三号)を置いているが、既存の小売人の位置変更許可申請についてはこのような規定を置いていないのであり、通達であるにすぎない規程及び運用要領によつて、憲法が国民に保障している営業の自由を制限することは許されない旨主張する。

しかしながら、小売人が営業所の位置を変更しようとするときは、公社の許可を受けなければならないことは法三〇条三項の明定するところであり、右規定と法三一条一項三号の規定との位置関係、また、同号による指定の制限が一定地域内に適正かつ合理的な水準を超える数の営業所が競合することを抑制する趣旨、目的のものであることを勘案すると、同号による指定の制限は、右位置変更申請についても準用されるものと解するのが当然である。したがつて、右位置変更許可申請について、法三一条一項三号が適用ないし準用されないことを前提とする原告の主張は、その理由がない。

また、法三一条一項三号に関する規程の定めとこれに基づく処理が違憲違法であるといえない点は、前述のとおりである。

5  原告は、申請に係る予定営業所が規程五条一項二号ただし書に該当するから二号本文所定の小売人指定の欠格条件(距離制限)は適用されないとし、二号本文を適用してした本件不許可処分は違法であると主張する。

そこで、規程(乙第一号証の二)の定めをみるに、営業所の位置変更申請についても規程五条一項二号による標準距離による指定の制限が準用される(規程二二条二項)から、予定営業所と小売人の営業所との距離が規程三条所定の環境区分別標準距離に達しない場合には許可してはならないことになるが(規程五条一項二号本文)、「予定営業所が、交通機関の乗降場の近傍、人の集散が著しい場所その他の特に製造たばこの小売業を営むのに適当と認められる場所にある場合」には、「この限りでない。」と定められており(同号ただし書)、右標準距離による指定(許可)制限が、そのままの形では適用されないことが文言上明らかである。また、前掲乙第三号証によれば、被告公社は、右規定を受けて、その取扱方法を全国的に統一するため運用要領を定め、その2・5・(3)・イ・(ロ)で別紙(一)記載のような場所をもつて「人の集散が著しい場所」とし、これに該当する場合には、前記標準距離による制限を一切排除するのではなく、これを緩和し、小売人の営業所との距離が規程三条所定の環境区分別の標準距離の一区分左の、いわば一段階緩和された標準距離を適用するという方法を採用していること、また、運用要領2・5・(3)・ロで、別紙(二)記載の場所に該当する場合には標準距離を適用しない取扱いにしていることが認められる。

そこで、原告の申請に係る予定営業所の位置が規程五条一項二号ただし書に該当するか否かをみるに、原告の予定営業所と秋田小売人の営業所とは、当該地域を南北方向に通つている国道一五五号線によつて隔てられていること、同国道は片側一車線であり、横断禁止の道路とはなつていないこと、同国道の諸車の通行量は、朝、夕の通勤時間帯においては比較的多いこと、原告の予定営業所位置の東方前面、秋田小売人の南方向約四九メートルの地点には、指示標識が設けられた横断歩道が設置されていること、原告の予定営業所と秋田小売人との距離は約七四メートルであることは当事者間に争いがなく、また、添付の写真が予定営業所付近を撮影したものであることは当事者間に争いがなく、その余は証人鈴木[金小]好の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一及び右証言によれば、右国道の車道幅員は約七メートルであること、付近一帯は住宅を主体に商店の混在する地域であつて、右国道の車の通行量も朝夕の通勤時間帯以外においては、それほど多くはないし、横断歩道には信号機は設置されていないが、その横断が危険であるとはいえないこと、また、予定営業所付近には人の集散するような施設等もないし、五〇世帯程度が入居しているマンシヨン等が付近にあるが、集合住宅が多数付近に存在しているという状態ではなく、特に人の往来が多いとはいえないこと、更に、予定営業所の位置は交通機関の乗降場の近傍でもないことなどが認められる。

被告公社の前記取扱い実務の指針を参酌しつつ、右に認定した予定営業所付近の状況を総合的に検討すると、原告申請に係る予定営業所の位置が、原告主張のような、標準距離による制限を一切排除するほどの「特に製造たばこの小売業を営むのに適当と認められる場所」(規程五条一項二号ただし書)に該当するものとは認め難い。

したがつて、予定営業所の位置が、右ただし書の場所に該当することを前提とする原告の主張はその理由がない。

6  原告は、被告支社長の小売人指定の取扱い実務をみても、規程、運用要領所定の距離制限に合致していないにもかかわらず、指定がなされた事例が数多くあり、右距離制限は、実際には適用されていないのであり、ひとり原告の場合にのみこれを形式的に適用することは許されない旨主張する(請求原因5の(四))。

そこで、まず、原告が、右距離制限が適用されなかつた事例として指摘する各事例につき検討するに、前掲乙第一号証の一及び前掲鈴木証言によれば、原告主張の事例<1>の指定が行われたのは、昭和四六年五月四日であり、両営業所間の距離は九二メートルであること、事例<2>の指定年月日は、昭和四四年四月一二日であり、両営業所間の距離は一九五メートルであること、事例<3>の指定年月日は、昭和四四年六月一一日であり、両営業所間の距離は一九〇メートルであること、事例<4>の指定年月日は、昭和五五年九月三〇日であり、両営業所間の距離は二〇九メートルであること(ここでの距離数は、両営業所間の最短距離ではなく、売場の中央部分から予定売場の中央部分までを、通常人が通行する方法で計測したものである。)、また、事例<1>ないし<3>については、被告公社における指定関係書類(指定申請書、指定申請調査書等)の保存年限が五年という内部規定になつている関係で、その指定関係書類は既に焼却処分されているため、右以外の指定に関する事実、すなわち、右各事例における予定営業所の、当時における環境区分、等地区分、付近の状況等が不明であること、したがつて、事例<1>ないし<3>については、それらが当時における規程及び運用要領所定の距離制限に合致していたか否かは、現時点では判然としないこと、事例<4>については、関係書類が保存されており、それによれば、指定の際の標準距離は二〇〇メートルであり、前記のとおり両営業所間の距離は二〇九メートルであるので標準距離による制限は守られていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない(なお、事例<5>が標準距離による制限に合致しないことを認めるに足りる証拠はない。)。

以上の事実関係によれば、原告主張の右各事例のうち、事例<4>については標準距離が守られており、その余の事例については、原告主張のように、これが守られていないと認めるに足りる証拠がないのであるから、右各事例の存在をもつて、規程、運用要領による距離制限が実際には行われていないと認定することはできないものといわざるを得ず、また、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

したがつて、右事実の存在を前提とする原告の主張は、その理由がない。

よつて、原告主張の本件不許可処分の違法事由はいずれも理由がないから、右処分は、結局、これを適法なものと認めるのが相当である。

三  損害賠償請求について

1  原告は、本件不許可処分が違法であるとして、これによる損害の賠償を求めているが(請求原因8(一))、右処分が適法なものであることは、前記二でみたとおりであるから、原告の右請求が理由がないことは明らかである。

2  原告は、被告支社長が本件位置変更許可申請に関する争訟が解決するまで原告の小売人資格を認める旨確約したのであるから、被告公社は、原告に対し、本件訴訟が終了し解決するまでの間、たばこを納品すべき債務を負うとし、右債務の不履行による損害の賠償を求めている(請求原因8(二))。

そこで検討するに、前掲乙第九号証、成立に争いのない甲第一号証、原告本人尋問の結果により、愛知県土地開発公社の担当者である横地宏が作成したものと認められる甲第二号証の一、同号証に原告が相談した杉浦英樹弁護士が加筆訂正したものと認められる甲第二号証の二、証人鈴木[金小]好の証言により真正に成立したものと認められる乙第二号証、同第七号証及び右証言並びに原告本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)によれば次の事実を認めることができる(一部、当事者間に争いのない事実を含む。)。すなわち、

原告は、昭和五五年一二月六日、愛知県土地開発公社に対し、現営業所の所在する原告所有の土地を売り渡し、これに伴い営業所の建物も除去して立退くことになつたが、一方、瀬戸市から、新たな土地の払下げを受けることになつていたので、右土地(予定営業地)で小売人営業を行うべく、予め、被告支社長に対し、小売人営業所位置変更申請をなした。

しかしながら、右申請は、昭和五六年七月二一日付で不許可となつたので、これを不服とする原告は、日本専売公社総裁に対し審査請求をなした。

原告は、愛知県土地開発公社より、現営業所建物(昭和五六年九月頃既に閉鎖休業中のもの)を早急に撤去するように求められていたが、原告としては、右建物を撤去してしまうと小売人資格を喪失することになりはしないかとの危惧の念があつたので、その旨を右土地開発公社の担当者である横地宏に伝えた。横地は、昭和五六年一〇月二九日、被告公社の中部支社に出向き、右支社の担当者である川戸主任等に対し、<1>物件はなくなつても行政不服審査は成立するのか、<2>審査裁決はいつ頃か等の照会をし、これに対し、川戸主任が、同年一一月二日、横地に対し、<1>行政不服審査は成立する<2>裁決は一年位かかることもある旨を回答し、更に、同月一二日には、店舗がなくなつても、これに影響なく、審査裁決が行われる旨を回答した。中部支社から右回答を受け取つた横地はその趣旨を原告に伝えるとともに、中部支社に右回答の内容を、文書化してもらい、これを原告に交付することで原告の了解を得、前記建物の撤去を早急に実現しようと考え、「<1>行政不服審査の裁定があるまでに当該建物を撤去しても裁定の判断に影響のないこと、<2>前記建物を撤去しても営業資格の喪失をしないこと」を中部支社が確認し、これを証明する内容の文案(甲二号証の一)を作成し、原告に、これを手渡した。原告は、右文案の内容について、杉浦英樹弁護士と相談し、右文案の内容を、「<1>本件位置変更申請に関する争訟が解決するまでに当該建物を撤去しても何等の影響も及ぼさず、従前通りの営業資格を有することを認める。<2>下記所在地において自動販売機のみの販売をすることを認める。」と加筆、訂正した文書(甲第二号証の二)を作成したが、右加筆訂正の主たる理由は、本件位置変更申請却下処分について、当時、審査請求が係属中であり、原案は、その判断が示されるまでとしていたのを、これが棄却された場合に、提起することを予定している取消訴訟の決着がつくまでの間、従前通りの営業資格を有することを中部支社に確認してもらうところにあつた。

原告は、昭和五六年一二月七日、右加筆訂正後の文書を持参して、横地と共に中部支社に赴き、その営業部販売促進課長鈴木[金小]好、川戸主任等と会い、その内容の検討を依頼した。右鈴木課長は、右文書の内容が、従前、横地に対してした回答を文章化したものであると考え、原告に対し、前記<1>の点については、証明することについては問題がないこと、前記<2>の点については、自動販売機の管理上の問題もあり、困難である旨を回答し、所管の瀬戸営業所に対し、右<1>については証明してよいが、右<2>については条件を付さなければ証明してはならない旨を指示し、瀬戸営業所長は、昭和五七年一月八日、「本件位置変更許可申請に関する争訟が解決するまでに後記土地上に存する建物を撤去しても何等の影響も及ぼさず従前通りの営業資格を有することを認める。」との内容の文書に、これを証明するとの文言を記載して記名、押印した上、原告に対し、これを交付した。

その後、昭和五七年下旬頃、原告の現営業所が撤去され、また、右審査請求は、同年七月二〇日付で棄却され、同月二七日、原告に対し、その旨通知された。

被告支社長は、「継続中の争訟」が確定したものと考え、右棄却裁決後である昭和五七年八月一一日、運用要領6・1・(7)の取扱い基準に従い、原告に対し、小売人資格喪失の通知をなした。

ところで、被告支社長は、現営業所が撤去された後も、原告に対するたばこの納品を続け、昭和五七年七月二九日に最終の納品をするまで、原告の位置変更申請地(予定営業所)にたばこを納入したが、これは、被告支社長の過誤によるものであつて、許可されていない予定営業所において販売することを容認したものではなく、現に、原告においても、予定営業所でたばこを店頭販売したことはなく、原告は、別途に販売している酒等の配達の際に併せてたばこも販売するなどしていた。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に牴触する部分は採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、瀬戸営業所長が原告に交付した昭和五七年一月八日付の文書(本件証明書)をもつて、被告支社長が原告に対し、本件位置変更許可申請に関する争訟が解決するまで原告の小売人資格を認める旨を確約したものである旨主張し、前掲甲第一号証の記載及び原告本人尋問の結果は、これに副うものであるが、問題は、被告支社長が「原告の小売人資格を認める」こと、すなわち、本件証明書にいう「従前通りの営業資格を有する事を認める。」との文言の意味内容が、単に、現営業所が撤去され、存在しなくなつた場合は、たばこの販売は営業所がないのでできなくなるが、小売人資格そのものは消滅しないとの趣旨であるのか、それとも、更に、許可されていない予定営業所での営業を容認し、同所へのたばこの納品継続をも約束する趣旨であつたかという点にある(仮に、前者の趣旨であるとすれば、原告主張の損害は生じる余地がないことは明らかである。)。この点に関し、原告本人は、本件証明書の趣旨は、予定営業所での営業を容認する趣旨のものであつた旨供述し、また、被告支社長が、現営業所撤去後において、原告の予定営業所にたばこの納品を継続したとの事実も右趣旨を窺わせるものである。

しかしながら、前記認定のとおり、中部支社の担当者である鈴木課長、川戸主任は、横地が本件を照会してきたときから、終始、現に係属中の審査請求のことを念頭に置いて応答しており、本件証明書の意味内容についても、営業所建物が撤去されても、係属中の審査請求との関係では、原告の小売人資格が直ちに消滅するわけではないとの趣旨の横地に対する回答が文章化されたものにすぎず、運用要領6・1・(7)のただし書の趣旨を確認した内容のものとの認識をしていたこと、そして、横地が原告に手渡した前記文案(甲第二号証の一)の内容に照らすと、中部支社の担当者が、本件証明書の意味内容について右のような見解を持つていることは、横地を介して原告にも伝えられていたものと思われること、また当時、原告と中部支社の担当者との間で、審査請求においてその不許可処分の適否が争われている予定営業所における営業を容認するか否かについての話し合いが行われたことを窺わせる証拠はないし、法が禁止している指定営業所以外の場所におけるたばこ販売を容認するような話し合いに中部支社の担当者が応ずるものとは、通常、考えられないこと、本件証明書(甲第一号証)の文言は、「従前通りの営業資格を有する事を認める。」というものであつて、「従前通りの営業資格」、すなわち、指定に係る現営業所位置における小売人資格が存続することを確認する趣旨に読み取ることはできるが、それ以上に、予定営業所における営業を容認する趣旨をも含むものとは理解し難いこと、また、被告支社長は、現営業所が撤去された後も、原告に対するたばこの納品を継続し、予定営業所へたばこを納入したけれども、これは被告支社長の過誤によるものであつて、予定営業所においてこれらを販売することを被告支社長が容認したものではなく、現に、原告においても、予定営業所でたばこを店頭販売したことはないことなどの諸点を併せ考えると、本件証明書の意味内容を、原告主張のような、予定営業所での小売人営業を被告支社長が容認する趣旨のものであつて、これにより、被告公社は、原告に対し、その予定営業所へたばこの納品を継続する債務を負うものとは、到底、認め難い。原告本人尋問の結果中、原告主張に副う部分は、前記諸点に照らし、採用し難く、また、他に原告主張の確約を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、被告公社が、原告に対し、現営業所撤去後においても予定営業所にたばこを納品すべき債務を負うことを前提とする原告の請求は、結局、その理由がないものといわざるを得ない。

3  更に、原告は、本件証明書が予定営業所における原告のたばこ販売が可能であることを確認する内容のものでないとすれば、被告支社長は、無意味な書面を交付して原告を欺罔し、原告をして、予定営業所におけるたばこの販売を継続できるものと誤信させたことになるので、被告公社は、右欺罔行為により原告が被つた損害を賠償すべきであると主張する。

しかしながら、前項で認定した本件証明書交付に至る経緯、本件証明書の文言及びその意味に照らし、被告支社長が、原告主張のような欺罔行為を行つたものとは、到底、認め難い。

したがつて、原告の右主張も理由がない。

四  以上の次第であり、原告の本件各訴えのうち、被告支社長に対して昭和五七年八月一一日付のたばこ小売人資格喪失処分(本件通知)の取消しを求める訴えは不適法であるからこれを却下し、本件各訴えに係るその余の請求はいずれも理由がないのでこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤義則 高橋利文 綿引穣)

別紙(一)

人の集散が著しい場所

a 街角

b ホテル、旅館、モーテル、料亭、食堂、キヤバレー、バーおよび喫茶店等の宿泊または飲食施設が付近に比較的多い場所

c 劇場、映画館、動植物園、グラウンド、集会所、遊園地、スケート場、ボーリング場、ゴルフ場、競馬場および競輪場等の遊興娯楽施設の付近の場所

d 官庁、会社、病院、工場、ビルデイング、百貨店およびスーパーマーケツト等の施設が付近に比較的多い場所

e 観光地および行楽地にある場所

f 取扱の予定高が二等地上位の標準に達すると認められる場所

g 三階建以上の中高層住宅で三〇〇世帯程度以上の団地内(商業区域が制限されている団地を除く。)であつて、取扱予定高が標準取扱高に達すると認められる場合

h 三階建以上の中高層住宅で三〇〇世帯程度以上の団地の周辺の場所(商業区域が制限されている団地の住民を主たる供給対象とする場合に限る。)であつて、取扱予定高が標準取扱高に達すると認められる場合

i その他上記に準ずる場所

別紙(二)

次に掲げる場所の場合は、標準距離を適用しない。

(イ) 自動車の通行する片側二車線以上の道路およびその他横断禁止または横断の危険な道路で隔てられている場所

(ロ) 異なる人の流れに面している場所

(ハ) 都市の中心的繁華街等であつて、しばしば激しい人の流れで隔てられている場所

(ニ) しばしば遮断される踏切で隔てられている場所

(ホ) 三〇〇世帯程度以上の団地内(商業区域が制限されている場合に限る。)の商業区域であつて取扱予定高が標準取扱高に達すると認められる場合

(ヘ) その他上記に準ずる場所

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